複数の会社で勤務の場合、
それぞれ社会保険の加入は必要?
最近は、以前に比べ、柔軟な働き方をしている方が多くなったようで、複数(大抵は2社ですが)の会社に勤めているという声もよく聞くようになりました。そんなとき、決まって社会保険の加入基準についてご質問を受けたりするのですが、今回は、この問題について、取り上げてみようと思います。
Q:「複数の会社で勤務の場合、それぞれの会社で社会保険の加入は必要になるのか?」
A:「それぞれ加入要件を満たしていれば、ともに加入が必要。ただ、一般的な労働者の場合、原則として、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が通常の社員の3/4以上という加入要件に基づくと、物理的に片方の事業所でしか加入対象になりえず、実態としてほとんどないといえる(*)。一方、これが経営者・役員の場合、一般に就労時間だけでは判断せず、役員報酬の有無や業務執行権の有無等も踏まえ、総合的に判断するケースが多いことから、それぞれの会社で社会保険加入の対象となりえる。」
*平成28年10月1日より、501人以上の企業において、上記所定労働時間・日数要件が1/2以上と改正されており、平成29年4月1日より、500人以下の企業においても、労使の合意に基づき(一定の手続きが必要)、上記所定労働時間・日数要件を1/2以上として適用の拡大が可能となっております。(数年後には人数要件を撤廃して、全面的に1/2基準で適用させる方針が示されています。)そのような場合、一般の労働者でも、2つの事業所で勤務すれば、2社でそれぞれ社会保険に加入というケースも出てきます。
*上記「短時間労働者の社会保険適用拡大」に関して、令和2(2020)年度法改正により、令和4(2022)年10月より101人以上、令和6(2024)年10月より51人以上と段階的に拡大される予定となっております。
【参考】「年金制度改正法(令和2年法律第40号)の成立」
現状、労働者はほとんど当てはまらないですが、社長・役員の場合には、該当するケースが多いということですね。以前は、該当したとしても、ほとんど手続きはされていないというのが実態でしたが、ここ数年の厚生労働省(日本年金機構)による加入指導強化の動きを受け、かなり適用は増えてきたように思われます。
適正な手続きとしては、2箇所以上の会社に所属することになった日の翌日から10日以内に「2以上事業所勤務届」を提出し、該当する会社での全ての報酬を合算した額を基に一つの標準報酬月額が決められます。その際、それぞれの会社を管轄する年金事務所が異なっていたり(協会けんぽで所在地が都道府県をまたがっている場合など)、健康保険組合が異なっていたりする場合は、一つの保険者を選択し、選択した年金事務所長宛に「保険者選択届」を提出します。
また、社会保険料の納付・負担については、複数の会社の役員報酬の額を合算して、各会社の役員報酬の額に応じて按分した金額がそれぞれの会社での社会保険料となります。
実際の事例でみてみましょう。
例)A社から60万円、B社から40万円の役員報酬を受けている社長のケース
A社60万円+B社40万円=合計100万円
100万円で、標準報酬月額がいくらか判断することになるため、
健康保険の標準報酬月額・・・98万円
厚生年金の標準報酬月額・・・65万円(上限)
●各事業所での保険料は・・・
A社:上記標準報酬月額×保険料率×60万/100万
B社:上記標準報酬月額×保険料率×40万/100万
上記により算出した額をそれぞれ会社負担分と折半して支払います。
つまり、どこの会社で役員報酬を支払ったとしても(負担割合が変わったとしても)、その役員報酬の合計分にかかる社会保険料を負担しなくてはならないということになるわけですね。
また、補足ですが、月額変更の場合は、その役員報酬の月額総額ではなく、各会社において2等級以上の差額が生じた際にのみ対象となり、その場合、改定のあった会社のみ届出を提出することになります
先にも少し触れましたように、ここ数年は年金事務所の加入勧奨・指導が徹底されていることもあって、上記2以上被保険者として加入手続きをされている事業所も増えてきたように思われます。もし、現時点で該当するにも関わらず、手続きを進めていないという方、特に該当する法人の社長・役員の方がいらっしゃいましたら、早めに手続きをされることをお勧めします。
特に近年は、国税庁の協力の下、毎月の源泉所得税の納付データを各管轄年金事務所でも把握できるような仕組みになっているため、報酬支払状況はある程度把握されているようですし、今後はマイナンバー制度の普及により、個人の報酬実態もある程度ガラス張りになってくることも想定されますので、いずれにしても早めに対策を講じる必要がありそうです。
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(情報更新日:2021-3-4)
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