「固定残業代」で残業代不払い提訴 違法になるケースとは?
中小企業で導入されているケースの多い、「固定残業制」。ただ、内容について理解が十分でないことから、労働トラブルに発展することも多く、注意が必要です。
先日も、「基本給」と説明のあった賃金の半分が固定残業代だったことにより残業代の不払いがあったとして、不動産仲介会社の元社員が同社に不払い分の残業代(店長からのパワーハラスメントへの慰謝料も含め計367万円の支払い)を求めて東京地裁に提訴というニュースがありました。
『固定残業代含んでいた基本給?支払い求め提訴』毎日新聞2015.2.12
http://mainichi.jp/select/news/20150213k0000m040074000c.html
業種がら労働時間が恒常的に長くなりがちな不動産業では珍しいケースではないものの、求人票では基本給30万円と提示しながら、実際の給与明細では、基本給15万円、固定残業手当15万円(時間外労働60時間分)と記載があったとのことなので、かなり確信犯的なブラック企業ともいえるかもしれませんが、ここまでひどくないにしても、固定残業制を使っている企業では、間違った認識で運用されているところも少なくないようです。
「うちは、固定残業制にしているから、勤怠管理はしていないんだよ。」
・・・!?案外、このようなことを言われる経営者の方もいらっしゃいますが、これは全くの誤りですので、ご注意ください。固定残業制は、一定の時間外労働分を予め設定している支払いルールにすぎず(事業場外のみなし労働時間制や裁量労働制とは違います)、またそもそも勤怠管理は、会社の義務であり、省略することはできませんので・・・。
固定残業制の留意点をまとめると、現行法では以下の4点に集約できます。
1)基本給部分と固定残業部分とが明確に区分けされていること。
2)固定残業部分が、時間外労働の何時間分に相当するのか(労働時間表示方式)、もしくはいくらになるのか(金額表示方式)、就業規則および労働条件通知書(雇用契約書)に明記されていること
3)実際に発生した時間外労働が、固定残業部分を上回る場合には、超えた金額について支払いが行われること
4)実際に発生した時間外労働が、固定残業部分を下回る場合でも、賃金控除が行われないこと
※ 2)については、最近の判例では、両方求められる傾向にあります。
ここまで書くと、「なんだよ、結局ほとんど会社のメリットはないじゃないか。」と思われる方も多いかもしれません。はい、実はその通りなんです。元々は時間管理の手間を惜しんで導入している企業が多いのが実情ですが、適正に運用しようとすれば勤怠管理を省けるわけではありませんので、そうなると残業がない社員にも一律固定金額で払うことになることから、余計に人件費がかかってしまうだけということになります。
企業によっては、ある程度の社員数規模になってから、賃金制度を見直す段階で、固定残業制が正しく運用されていないことに気づき、コンプライアンスと総額人件費の予算との板挟みで身動きが取れなくなるというのも珍しくありません。場合によっては、段階的に正しい運用に変えていきソフトランディングを目指すというのも必要かもしれませんが、固定残業制が過重労働の温床となっているとみなされている傾向もあることから、極力早目に適正な運用に切り替えていくべきでしょう。
※公開日時点での法令・情報等に基づく内容となっております。