政府は厚生年金に入っていない中小零細企業など約80万社(事業所)を来年度から特定し加入させる方針となったようです。国税庁が保有する企業情報をもとに厚生年金に加入していない企業を調べ、日本年金機構が加入を求めるという流れとなり、応じない場合は法的措置で強制加入させるということです。加入逃れを放置すれば、きちんと保険料を払っている企業や働く人の不満が強まり、年金への信頼が揺らぎかねないとの判断に因るようです。
具体的には、加入逃れをしている企業を特定するため、所得税を源泉徴収している事業所に関する国税庁のデータを使います。所得税を従業員に代わって納めている企業・事業所は全国に約250万カ所あり、名称と所在地、給与支給人員などを年金機構に提供することにしました。
年金機構は実際に厚生年金を納めている約170万の事業所のデータと照合します。税金は払っているが、年金保険料を払っていない約80万の事業所は大半が中小零細とみられていますが、こういった企業に年金加入を強く求めていくようです。
年金機構はこれまでも未加入の事業所の特定や加入要請を進めてきました。ですが、ペーパーカンパニーや休業中の企業が多いこともあり、十分な効果を上げられていませんでした。納税情報を基にすれば、実際に従業員を抱え、保険料を支払えるのに加入を逃れている企業を効率的に調べることが可能です。
データの照合作業が終わり次第、年金機構は来年度にも、加入逃れが疑われる全事業所に文書や電話で厚生年金への加入を求めます。応じなければ訪問指導などを実施。最終的には立ち入り検査で事業の実態や従業員数などを把握し、強制的に年金への加入手続きを取ります。来年度から数年で全事業所が厚生年金に加入することを目指します。
本来厚生年金に加入すべきなのに、加入できていない会社員は数百万人になるとされます。多くは国民年金に加入しているとみられますが、将来受け取れる年金額が低くなり、老後の生活が苦しくなる人も多いと見込まれます。こうした背景の中、企業の加入逃れを食い止めることで、将来の生活保護の増加などを抑える効果も期待できます。
加入逃れの企業が厚生年金保険料を払えば、年金財政は改善します。国民年金の保険料納付率は60%強と低水準にとどまりますが、厚生年金は加入企業の納付率が97%と高いです。これは、国民年金は個人が保険料を毎月振り込んだり、窓口で払ったりする必要がありますが、厚生年金は企業が一括して払うという理由に因ります。未納や滞納が国民年金より少なく、収入が確実に入ってくるため、年金財政の安定に寄与します。
国税庁と日本年金機構を統合して歳入庁をつくるべきだとの意見もありますが、政府内には「形式的な統合は無意味だ」などと消極的な意見が多く、実質的な連携を強化することで、歳入庁の設立を求める声をけん制する狙いもありそうです。